第8章

晴也は目を閉じると、記憶が潮のように押し寄せてきた。

三十九年前の、あの秋のことだ。

「お母さん、『少女の心』って雑誌の編集部からまた電話だよ!」七歳の晴也が、台所で皿を洗っている夏美のもとへ興奮した様子で駆け寄ってきた。

夏美は手を止め、その目に一筋の希望の光を宿した。「なんて言ってた?」

「お母さんの連載企画、一次審査に通ったって!来週、面談に来てほしいって!」

夏美は感激のあまり、泣き出しそうになった。出産後、初めて受けた正式なオファーだったのだ!

だが、その矢先、晴也が突然高熱を出した。

「お母さん……しんどいよ……」晴也は顔を真っ赤にして熱を出し、ベッ...

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