第55章

水原音子は困惑しながらそれを受け取り、表紙を開くと、そこには保険契約書が入っていた。

保険の対象者は彼女の名前、そして受取人も彼女自身。金額に関しては——

まさに天文学的な数字としか言いようがなかった!

水原音子は大いに驚き、顔を上げて彼を見つめた。「こんなに大げさにする必要ある?」

「大げさかな?」佐藤光弘は問い返した。「君たち調香師にとって、鼻がどれほど重要か考えたら、全然大げさじゃないし、むしろ絶対に必要だと思うけど」

そう、確かに!調香師にとって鼻は極めて重要だ。香りの調合の世界では、努力以上に天賦の才が物を言う。何百もの異なる香りを嗅ぎ分けられる鼻は、どんな後天的な努力よ...

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