第31章

稲垣日織の目尻に、ぽろりと涙がにじんだ。小さな手でシーツをぎゅっと掴み、かすれた声で尋ねる。

「パパ……ママは? どうして来てくれないの?」

自分はこんなに具合が悪いのに。ママはもう、ほんとうに自分のことが要らないの?

稲垣征也は、喉の奥が詰まったように言葉を失った。新藤鈴奈へ連絡する勇気が出ない。もし冷たく拒まれたら、日織はもっと傷ついてしまう。

返事ができずにいる征也の横で、津田真由がそっと日織の額に手を当てた。声音は柔らかい。

「日織、ちゃんと休んで。元気になったら、一緒にママのところへ行こうね。ママは今お仕事で動けないだけ。ママのこと、責めないであげよ?」

その瞬間、日織...

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