第54章

入院棟の3階、外廊下の先にあるバルコニーには、小さな庭がつながっている。

稲垣日織が騒がしい場所を嫌うと知って、稲垣征也は大金を投じ、この一帯を丸ごと押さえた。日織だけの「小さな世界」に作り替えるために。

ブランコとアップライトピアノが、互いの邪魔をしない距離で置かれている。

稲垣日織は時々、津田真由とここへ来て気分転換をしていた。

まるで小さな姫の裏庭みたいに整えられた空間を前に、新藤鈴奈は一瞬、現実感を失った。

稲垣征也のことは嫌いだ。

けれど少なくとも今この瞬間だけは、稲垣日織が彼の手のひらの上で大切に守られ、惜しみなく愛されているのだと認めざるを得なかった。

日織は甘や...

ログインして続きを読む