第56章

新藤鈴奈が、まさか記憶喪失になるなんて。

神園和臣にも、それが良いことなのか悪いことなのか、すぐには判断がつかなかった。

稲垣征也にあんなふうに扱われたことを思えば、彼のことを忘れているのはむしろ幸いだ。だが、二人のあいだにはまだ整理のついていないことが山ほどある。もし稲垣征也が、鈴奈の記憶喪失に乗じてうまく言いくるめでもしたら――

そう思って眉をひそめていたときだった。

ずっと静かだった新藤鈴奈が、警戒するように眉を寄せ、彼を見つめてそっと訊ねた。

「あなた、誰……? それに、私って誰なの……?」

記憶を失った恐怖のせいだろう。彼女の目は、誰を見るにも怯えと警戒を滲ませていた。...

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