第71章

新藤鈴奈は、まだ灯りの消えない手術室の前で眉を寄せた。声には怒りが滲む。

「……嘘ついたのね」

稲垣日織がずっと自分の名前を呼んでいる、そう言っていたくせに、彼女はいまだ手術室から出てきていない。

稲垣征也は頬を叩かれたところがじんじんと痺れていた。わずかに不機嫌そうな顔をしたものの、ぐっと飲み込んで言う。

「……俺が日織のことをちゃんと見てなかった。マンゴーにアレルギーがあるなんて知らなかったんだ。君は実の母親だろ。俺より知ってると思った」

言い終わるより早く、隣の神園和臣が、口元だけで笑うように言った。

「鈴奈、今は記憶喪失なんだろ。覚えてるわけないじゃん」

稲垣征也の冷た...

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