第72章

医師はそこでようやく人違いに気づき、新藤鈴奈に慌てて頭を下げた。

「申し訳ありません。勘違いしていました」

稲垣征也が津田真由に付き添っていたのを見て、夫婦だと思い込んだのだろう。あの二人の距離感は、どう見てもただの知り合いには見えなかった。

医師は内心でぶつぶつ言いながら、意味ありげに稲垣征也と津田真由へ視線を投げ、首を横に振って立ち去った。

稲垣征也の顔色は鉄のように青い。だが神園和臣は、わざわざ火に油を注ぐ。

「外の人間にまで、そういう関係だと思われてる。それでも自分は悪くないって?」

「俺は……」

稲垣征也は眉を寄せ、新藤鈴奈を見た。

けれど新藤鈴奈は、彼の言い訳など...

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