第87章

「日織、お前は……さすがにわがまますぎる」

稲垣征也は津田真由が去っていく背中を見送ると、不機嫌さを隠しもせず稲垣日織へ視線を落とした。低く沈んだ声には、責める色が濃い。

新藤鈴奈は、彼の目の奥にある焦り――いや、心配を見逃さなかった。ちらりと一瞥し、淡々と言う。

「そんなに気になるなら、追いかけて見てくれば?」

稲垣征也の表情がわずかに強張る。張り詰めた顎のラインが、冷たく硬い。

「日織が悪いことをした。叱っただけだ」

新藤鈴奈は内心で鼻を鳴らした。相手にするのも億劫で、踵を返してベッドのほうへ向かう。

そのあまりの素っ気なさに、稲垣征也は唇をきゅっと結んだ。

「……ちゃん...

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