第89章

稲垣家に二日ほど滞在して、稲垣日織の体調もほぼ落ち着いた。新藤鈴奈はそろそろ帰ろうと決める。家には、彼女が宥めないといけない人が待っているのだから。

朝食の席で、鈴奈は帰るつもりだと切り出した。

稲垣征也の顔色が、すっと沈む。箸を置き、眉を寄せて鈴奈を見た。

「日織はやっと治ったばかりだろ。あと二日くらい、そばにいてやれないのか」

稲垣日織も、泣きそうな目で鈴奈を見上げる。

「ママ、行かないで……だめ?」

反対されるのは想定済みだった。鈴奈は驚きもせず、静かに目を上げる。

「撮影の仕事があるの。いつまでもここにはいられないわ」

神園和臣のためじゃなくても、元夫の家に住み続ける...

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