第90章

新藤鈴奈は眉をひそめた。

どうしてこの二人は、彼女が怒ると決めつけているのだろう。

本当に、どうでもよかったのに。

「鈴奈、出ていくの?」

津田真由が彼女の手元のキャリーケースに目を留め、驚いたように尋ねた。

「見りゃわかるだろ」

玄関のほうから、澄んだ声が飛んでくる。どこか嘲るような響きを含んでいた。

新藤鈴奈が顔を上げると、そこに立っていた人物を見て目がぱっと輝く。

「こんなに早いの?」

彼女はキャリーケースを押しながら二人の脇をすり抜ける。稲垣征也に向けていた表情とはまるで違う、柔らかな笑みを眉目に浮かべて。

神園和臣が自然にキャリーケースを受け取り、親しげに彼女を...

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