第十二章

辰は、絵里が示した方へと視線を向けた。

 

真っ先に目に飛び込んできたのは、紗夜の浮かべた微笑みだった。

 

あの女が、あんな表情をするなんて思いもしなかった。

 

窓際のテーブル席で、紗夜は一人の男と向かい合って座っている。その隣には、遥と見知らぬ少女が並んでいた。紗夜は唇の端をかすかにほころばせ、目尻を優しく下げている——彼女は笑っていた。心の底から、楽しそうに。

 

その姿は、辰の知る紗夜とはまるで別人であった。

 

この六年間、一度として彼女のあんな顔を見たことがない。

 

結婚して間もなく、紗夜はいつもひどく堅苦しい様子だった。ただ黙々と家事をこなすだけの、つまらない女。それが辰の紗...

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