第十六章

黒沢辰は、ひとつ咳払いをした。

 

「先生、始めていただけますか」

 

高くはないが、有無を言わせぬ重みのある声だった。

 

その場にいた保護者たちの視線が、紗夜から一斉に外れ、無表情でスーツをきっちりと着こなした若い男へと注がれる。

 

彼のシャープなショルダーラインを持つオーダーメイドのスーツを一瞥し、それから紗夜の隣に立つ藤原司に目を移す者もいた。こちらもまた、いかにも高価そうな、しかしそれをひけらかさない上質な生地だ。誰もが心の中で値踏みをし、口々に交わしていた言葉を収め、ぞろぞろと席に戻っていく。

 

担任の教師は素早く状況を察すると、鼻の上の眼鏡を押し上げ、教壇の前に立った。

 

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