第三十章

彼女は彼の返事を待たなかった。

 

車のドアを開け、外に出る。

 

辰は車から降りることなく、少しの間そこに留まった後、Uターンして先ほどのホテルの方向へと走り去った。

 

ヘッドライトが夜の闇に弧を描き、あっという間に道の向こうへ消えていく。

 

夜風が吹き抜け、彼女の髪を乱し、ローズレッドのスカートの裾をふわりと揺らした。

 

紗夜は、その場に立ったまま動かなかった。

 

胸の奥が、何かにきゅっと鷲掴みにされたような気がした。

 

愛ではない。

 

それはもう、決して愛ではないと確信している。

 

何と名付ければいいのか分からない、何か。哀しみよりも重く、怒りよりも鈍い、まるで喪に服すよう...

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