第三十一章

紗夜は親権を奪われることを恐れてはいなかった。黒沢家が跡継ぎである男児をいかに重んじているか、その証拠は彼女の手にあるのだから。

 

しかし、遥に両親が醜く争う姿を見せたくはなかった。

 

それに、彼の言うことにも一理ある。遥には父親に会う権利がある。それは、彼がどんな人間であろうと変わらない事実だ。

 

「わかったわ。今夜、戻る」

 

そう言うと、彼女は一方的に電話を切った。

 

◇◇◇

 

黒沢の屋敷に着くと、玄関の明かりは灯っていたが、家の中は静まり返っていた。

 

紗夜は靴を履き替え、二、三歩足を踏み入れると、無意識に書斎の方へ視線を向けた――誰もいない。

 

辰は不在だった。

 

紗...

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