第五十一章

辰のその言葉に、紗夜は可笑しいとしか思えなかった。

 

この期に及んで、自分がただ癇癪を起しているだけで、彼が差し伸べる手を待っているとでも思っているのだろうか。

 

「黒沢さん、ご心配なく。私が振り返ることは、絶対にありませんから」

 

彼女の声は、ひどく平坦だった。

 

前もって呼んでおいたタクシーが、ちょうど路肩に停まる。

 

紗夜はてきぱきとドアを開け、車に乗り込み、ぴしゃりと閉めた。

 

一度も、彼に視線を送ることなく。

 

辰が一人、その場に立ち尽くす。タクシーのテールランプが視界から消えていくのを、ただ見送ることしかできなかった。

 

 

タクシーの車内で、紗夜はスマートフォ...

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