第五十四章

保護者たちの会話は、特に声を潜めるわけでもなく聞こえてきた。

 

「お二人、もう別居なさってるって噂よ?」

 

「あの子の隣にいる男性、誰かしら。黒沢さんじゃないわよね……」

 

「だから最近、奥様がお一人でお子さんを送っていらっしゃるのね——」

 

紗夜は誰が話しているのか、振り返って確かめようとはしなかった。

 

ただ静かに、遥へと視線を落とす。

 

遥は紗夜の手をさらに強く握りしめ、声は出さずに、長い睫毛を伏せて自分の靴のつま先をじっと見つめている。

 

紗夜は娘の手をそっと握り返し、幼稚園の門へと向かって歩き出した。

 

隣には藤原司が、表情を変えることなく、穏やかな足取りで付き添って...

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