第五十九章

紗夜は深く息を吸い込んだ。

 

彼にこれ以上説明したくはなかった。

 

「どう思おうと勝手よ。とにかく、白石絵里を遥の前に出しちゃだめ」

 

その言葉が落ちると、病室は奇妙な静寂に包まれた。

 

辰は眉をひそめ、彼女をじっと見つめたまま口を開かない。数秒の沈黙。

 

やがて、その眉間の皺がふっと和らいだ。

 

何かに気づいたかのように。

 

「後悔してるのか?」

 

その語尾は、ほとんど気づかれないほどの愉悦を帯びて、わずかに上がっていた。

 

「離婚したこと——だから絵里にあれこれとケチをつけるんだろう」

 

彼の理屈は単純だ。紗夜が繰り返し遥と絵里を会わせまいとするのは、遥まで絵里に懐いて...

ログインして続きを読む