第六十八章

紗夜は静かに視線を返した。

 

「白石さんですら、いらっしゃるのですから」

 

そう言い放つと、彼女はぷいと横を向き、もう絵里に視線を向けることはなかった。

 

紗夜がB3のワークスペースに向かい、バッグを置いた途端、背後から聞き覚えのある低い声がした。

 

「早いな」

 

彼女が振り返ると、そこには藤原司が立っていた。コンビニで買ったであろうコーヒーを片手に、いつものように気怠げな表情を浮かべている。

 

チャコールグレーのシャツの袖は無造作に肘まで捲られ、襟元は緩く開いている。その姿は、周りのスーツに身を包んだ企業代表たちの中で、ひどく浮いて見えた。

 

「藤原先生」

 

紗夜は軽く会釈し...

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