第七十三章

紗夜は、微かに眉をひそめた。

 

用意周到、といったところか。

 

この包囲を突破すること自体は、そう難しいことではない。これくらいの状況は、彼女にとって取るに足らないものだ。

 

ただ、握っているのが翔真の限定モデルのハンドルだという事実が、彼女の指をほんの一瞬、ためらわせた。あってはならない躊躇が、思考をよぎる。

 

その、ほんの一瞬の逡巡。

 

翔真はそれを正確に読み取っていた。

 

助手席で彼は僅かに瞼を持ち上げる。三台の車に目をくれるでもなく、ただ紗夜だけを見つめ、こともなげな口調で言った。

 

「今日この車がオモチャみたいに壊れたって、俺は眉一つ動かさないさ」

 

青いポルシェが速...

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