第八章

「紗夜、何をしている!」

 

抑えた怒りを含んだ、低い声が入口から響いた。

 

紗夜の身体がこわばる。

 

慌てて藤原司の腕の中から離れ、顔を上げると、黒沢辰がこちらへ大股で歩いてくるのが見えた。スーツを隙なく着こなし、その顔は険しく、眼差しは刃のように鋭い。

 

司の腕がゆっくりと下ろされ、瞼をわずかに持ち上げて彼を一瞥した。ビジネスの場で何度も顔を合わせており、互いに見知った仲だ。

 

辰の視線は、司の存在などまるで無いかのように、紗夜にだけ、じっと注がれている。その眼差しは、まるで他人に汚された自分の所有物を見るかのようだった。

 

「来い」

 

問いかけでも、願いでもない。

 

命令だ...

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