第八十七章

なぜ彼は、自分が後悔すると思い込んでいるのだろう。

 

紗夜には理解できなかった。

 

けれど、これ以上揉めたくはない。離婚にさえ同意してくれれば、それでよかった。

 

「条件についてですが」と紗夜は切り出した。「財産分与は結構です。銀行口座も、港区のマンションも、黒沢家の株式も、何も要りません」

 

辰の眉が微かに動いたが、彼は何も言わなかった。

 

「瑞樹の親権は、あなたに」

 

「遥は、私が引き取ります」

 

辰はしばらく紗夜を見つめていたが、やがて何の感情も乗らない声で口を開いた。

 

「遥は黒沢の血を引いている。親権をお前が決める権利はない」

 

一つ一つの言葉が、床に落ちていく。お...

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