第九章

紗夜は玄関に立ち尽くし、目の前の光景が信じられないといった表情を浮かべていた。

 

瑞樹は振り返り、母の姿を認めると、その表情を引き締めるどころか、むしろ得意げに肩をすくめてみせる。

 

「ねえ、僕に新しいママができるんだ」

 

その言葉は、一言一句、紗夜の耳に届いた。

 

けれど、頭が、その言葉と目の前のこの子を結びつけるのに、一瞬の空白を必要としたかのようだった。自分が五年もの間、心を込めて育ててきたこの子が、今、目の前で、こともなげにこう告げているのだ。「僕に新しいママができるんだ」と。

 

心のどこかが、ズキリと鈍い痛みを立てた。

 

傍らに立つ遥は、服の裾をぎゅっと握りしめ、眉をひそ...

ログインして続きを読む