第九十三章

紗夜は彼を見つめたが、すぐには言葉を発さなかった。

まさかそんなことを訊かれるとは思ってもみなかった。

胸の内で一瞬感情が渦巻いたが、紗夜はそれをぐっと押し殺した。

「ええ、知ってるわ」

瑞樹の目がぱっと輝き、半歩前に踏み出す。その口調には、意識して取り繕っていたであろう尊大な響きがまだ残っていたが、興奮でほとんど支離滅裂になっていた。「じゃあ、その人に連絡して、サイン入りの写真をもらってきてよ。あと、僕と会えるようにセッティングして」

頼んでいるのではない。命令だった。

あの口調、あの態度——紗夜の中で、何かの弦が音もなくぴんと張り詰めた。

彼女にはわかった。

あれは、黒沢辰...

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