第112章

病室で、田中康介はベッドに横たわったまま、がらんとした出入口を見つめていた。

「二度と関わらない」――そう言ったときの彼女の声は、報告書を読み上げるみたいに淡々としていた。

ふいに、ずっと昔のことが脳裏をよぎる。

渡辺美咲が田中家に嫁いできたばかりの頃も、田中爺さんに対して同じ調子で話していた。馴れ馴れしくもなく、かといって冷たく突き放すわけでもない。ただ、事務的。

彼女が自分にだけ向けてくれた、別の声色もあった。

けれど、それはもう長いこと消えてしまっている。

田中康介はようやく理解した。

渡辺美咲の中で、自分に向ける忍耐が少しずつ擦り減っている。コップの水が一口ずつ飲み干さ...

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