第114章 君を起こしたくない

渡辺美咲は歩み寄り、手の甲でそっと彼の額に触れた。熱はない。続けて傷口も確認する。ガーゼに滲みはなく、状態は安定していた。

「痛い?」

そう尋ねると、田中康介は顔を向け、少し意外そうに眉を上げた。

「……まだ帰ってなかったのか」

「通りかかっただけ」渡辺美咲は手を引っ込める。「痛いならナースコール押して。看護師さんが鎮痛剤持ってくるから」

田中康介は首を振った。

「いい。少し我慢すれば引く。……起こしたら悪いだろ」

渡辺美咲の動きが、ふっと止まる。彼女は見下ろしたまま、静かに言った。

「私が通りかからなかったら?」

田中康介は小さく笑った。ひどく軽い声で。

「そのときは…...

ログインして続きを読む