第119章

田中康介は俯いたまま、自分の右手を見つめていた。表情は淡々としている。けれど瞳の奥を、何かが一瞬だけ走る――怒りではない。もっと長いあいだ胸の底に沈めてきた、報われない悔しさみたいなもの。

渡辺美咲は視線を引き、これ以上は踏み込まなかった。

理学療法の機器を装着してやるとき、指先がふと彼の指に触れる。

田中康介の指は冷たかった。だが彼女の肌に触れた瞬間、指がかすかに丸まった。何かを掴もうとするみたいに。

渡辺美咲はすっと手を引く。

「20分したら電源切って。勝手に動かさないで」

「……うん」田中康介が短く返す。

渡辺美咲はドアのところで一度足を止めた。

「明日、リハビリテーシ...

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