第16章 転がる

田中健人のためらいは、細い針みたいに、そっと渡辺美咲の胸を刺した。

 何年も何年も痛いほど愛してきた我が子を、彼女はただ静かに見つめる。瞳の奥に残っていた最後のぬくもりが、少しずつ、少しずつ消えていった。

 やがて田中健人はうつむき、小さな声で口を開いた。けれど、その言葉がかばったのは渡辺莉々のほうだった。

 「……ママが学校に来なかったから、莉々おばさん、慌てちゃって……それで、うっかり僕を押しただけ」

 「ママ、どうして学校に来てくれなかったの? どうして僕のこと、放っておいたの?」

 顔を上げた田中健人の目は真っ赤だった。そこに滲んでいたのは、悲しみだけじゃない。わずかな非難...

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