第29章 彼女は来たことがない

田中康介は、田中蘭の言葉を聞いても、すぐには意味が呑み込めなかった。

「母さん……それ、どういう意味だ?」

声には力がない。だがなおも問いただす。

「母さん、美咲は……本当に怪我してないのか?」

そこまで渡辺美咲を気にかける田中康介の様子を見て、渡辺莉々の胸は針で刺されるように痛んだ。

歯をきつく食いしばり、それでも無理やり笑みを作る。

「康介、心配しないで。美咲さんは無事よ。弾はあなたに当たったんだもの、あの人はかすり傷ひとつしてないわ。あのときどれだけ危なかったか、あなた知らないでしょう。お医者さまも、出血がひどくて、あと数分遅れていたら――」

「……それならよかった」

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