第34章 傷口が開く

午後になると、田中康介は無理を押して出社した。

 だが、まるで仕事に身が入らない。

 書類は目に入らず、会議の話も頭を素通りする。秘書が業務報告をしているあいだでさえ、田中康介の意識は上の空で、頭の中は渡辺美咲のことでいっぱいだった。

 手術を終えたばかりで、まだ病院にいる――彼女はそう言っていた。

 今ごろ、何をしているんだろう。

 疲れていないか。ちゃんと食事は取っているのか。

 いら立った田中康介は、手にしていたペンを机へ放り投げると、椅子の背にもたれ、目を閉じた。

 思い出すのは、以前の渡辺美咲だ。どれだけ忙しくても、彼女は帰ってきて田中康介のために食事を作っていた。

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