第43章 どこ吹く風

「莉々、俺にはまだ大事な用がある。今日は本当に、もうここにはいられない。ちゃんと飯を食え。先に帰る」

 田中康介は目を伏せ、それから容赦なく、袖をつかんでいた彼女の手を払いのけた。

 上着を手に取ると、そのまま大股で背を向ける。

 渡辺莉々は、まさか断られるとは思っていなかったのだろう。しばし呆然と立ち尽くした。

 だが、ほんの一瞬だった。

 気がついた時には、田中康介はすでにエレベーターに乗り込み、下へ降りていた。

 慌てて追いかけた時には、もう遅い。彼は車のエンジンをかけ、そのまま走り去っていくところだった。

 渡辺莉々はぎりっと奥歯を噛みしめ、拳を強く握る。顔いっぱいに滲...

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