第69章 あれは家じゃない

「いる」

田中康介はそう言い切り、渡辺美咲の手首をつかむ指に、さらに力を込めた。

「昨日の男は誰だ」

美咲は、どうせそう聞かれると分かっていた。だが答える気はない。

もうすぐ“元夫婦”になる相手に、いったい何の権利がある。

「私のことは、あなたに関係ない」

淡々とした声に、康介の眉間の皺が深くなる。

「関係ある。少なくとも正式に離婚するまでは、お前は俺の妻だ。田中グループ社長の奥様でもある」

言葉を区切り、低く続けた。

「もし他の男と関係があるなら、田中グループの株価にも響く。仕事にも、いろいろ影響が出る」

康介自身、肩書きで押したところで美咲が本当のことを言うとは限らな...

ログインして続きを読む