第72章 言い争い

田中康介は眉をひそめた。

「お前に似合う服を一着、用意しただけだ」

渡辺美咲の声が、すっと冷える。

「似合うって何? あなたが似合うと思ったら、それで決まり? 私に聞いた?」

「服の何が気に入らない?」

「問題は服じゃない」渡辺美咲は顔を上げ、まっすぐ彼を見た。

「あなたって、いつもそう。何も言わないで、全部勝手に決める。何を着るか、誰に会うか、何を言うか。全部あなたが段取りして、最後に『お前のためだ』って言う」

「お前のためにやって、何が悪い」

「私がそれを望んでるか、一度でも聞いた?」渡辺美咲の声が跳ね上がる。

「あなたが『いい』と思うものを押しつけてくるだけ。私が欲し...

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