第78章 行かないで、いい?

田中健人は箸を止め、麺を持ち上げたまま固まった。視線が揺れ、そこにためらいが滲む。

きょろきょろと左右を見回し、部屋に他人の気配がないのを確かめてから、声をぐっと落として渡辺美咲に囁く。

「ママ、ぼく……こっそり見ちゃったことがあるんだ」

子どもが身を縮めるようにして、怯えた顔で言う。その様子に、美咲の胸の奥で好奇心がふっと膨らんだ。

「何を見たの?」

「莉々おばさん、パパの前だとぼくにすっごく優しいのに、パパがいなくなると、急に放っておくんだ。それに……おばさんとかおじさんたちに言ってた。これからは自分がここの奥さまで、ぼくは『ママ』って呼ばなきゃいけないって」

そこまで言うと...

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