第8章 諦める

田中康介が背を向けて去っていく。その後ろ姿は、ひどく決然としていて、ひどく冷たい。足を止める気配など、かけらもない。まるで病室に横たわっているのが、自分の妻ではなく、どうでもいい赤の他人であるかのように。

 渡辺美咲はベッドの背にもたれた。こめかみがずきずきと疼く。けれど、その痛みすら、胸の奥で何度も引き裂かれてきた傷には遠く及ばなかった。

 ゆっくりと目を閉じる。

 耳の奥では、さっき田中康介にぶつけられた言葉が、いつまでも反響していた。

 ――お前の心は、どうしてそこまで醜いんだ

 醜い?

 十月十日かけて田中健人を産み、十年ものあいだ守り続けた。田中康介がどん底にいた時だっ...

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