第82章 彼はすべて見ていた

「渡辺美咲、誰に向かって“恥知らず”なんて言ってんの?」

渡辺莉々が声を張り上げる。甲高く、耳に刺さった。

「あなたに。――あなたは恥知らずよ」

渡辺美咲は一歩も引かず、真正面から言い返す。

渡辺莉々は怒りで全身を震わせ、手を伸ばして美咲を突き飛ばした。

不意を突かれた渡辺美咲はよろめき、背中から棚にぶつかる。

手が緩み、スーツケースがどさりと床に落ちた。

「……っ!」

立ち上がって言い返そうとした、その瞬間。

渡辺莉々の足が、ぐいっと美咲の指を踏みつけた。

「――あっ!」

悲鳴を上げても、莉々は聞こえないふりをする。むしろ体重をかけ、ぐり、と踏み込んだ。

「渡辺美咲...

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