第83章 辞退

ここまで聞いて、渡辺美咲はようやく顔を向け、彼を一瞥してから問いかけた。

「……見てたの?」

「見てた」

「何を?」

渡辺美咲は冷えた視線で彼を射抜き、逃がさないように追い詰める。

田中康介はしばらく黙り、それからゆっくり口を開いた。

「……あいつが、お前を突き飛ばして。手を踏みつけたところ」

その言葉を聞いた渡辺美咲は、かえって冷たく鼻で笑った。

「じゃあ、信じる? あの子は『先に手を出したのは私』って言うよ」

田中康介は、すぐには答えられなかった。

渡辺美咲は彼の横顔を見つめる。清冽で、どこか遠い。その横顔に、隠しきれない寂しさが胸をかすめた。

「……信じたんでしょ...

ログインして続きを読む