第90章 私は妊娠した

「別に……何でもない」

 渡辺美咲が身を寄せてきた、その瞬間だった。田中康介は全身がびくりと震え、指先の力が抜ける。手の中のスマホがするりと滑り落ち――床に叩きつけられた。

 ぱきん、という乾いた音。

 画面は一瞬で蜘蛛の巣みたいにひび割れ、次の瞬間にはほとんど砕け散った。

 その反応があまりに不自然で、渡辺美咲は訝しげに康介を見る。

「今の……」

 言い終える前に、田中康介が食い気味に遮った。

「何もない! ただ、手が滑っただけだ」

 言い訳はしているのに、顔色がどこか引きつっている。

「さっき、誰からメッセージ来てたの?」

 渡辺美咲はそう言いながら、床に転がるスマホ...

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