第93章 不在着信

田中康介は契約書を受け取ると、冷えた顔のまま追い払うように顎で示した。

渡辺莉々も同じページを丁寧にしまい込み、田中康介に甘ったるい笑みで頷いてから踵を返す。

契約書は手に入れた。けれど、田中康介という男を、莉々はまるで信用していなかった。

田中グループのビルの下。行き交う車の流れをぼんやり眺めながら、彼女は人目につきにくい場所を探し、探偵に電話をかけた。

「……ねえ、時間は本当にこれで確定?」

受話器の向こうから、男の低い声が返る。

「その時間で間違いない。残金はいつ入る?」

「焦るな。こっちで確証が取れたら、残金は口座に振り込む」

渡辺莉々はそれだけ言って通話を切り、同仁...

ログインして続きを読む