第10章

九条蓮(くじょう れん)が歩みを進めようとしたその時、琉璃(るり)に引き止められた。

彼女の手が彼の袖口を握りしめる。いつもより少しばかり力がこもっていた。

琉璃は顔を仰ぎ見、いつものように甘えるような声を出す。

「もうすぐオークションが始まるわ。中に入りましょう?」

蓮は振り返り、先ほどの方向をもう一度見た。

廊下に人影はまばらで、詩織の姿はすでにない。

彼は眉をひそめた。

「さっき、見なかったか——」

「誰を?」

琉璃は首を傾げ、まつ毛を微かに揺らした。

「浅宮秘書のこと? 見てないわ。彼女、今日は来ていないんでしょう?」

蓮はそれ以上何も言わなかった。

もう一度だけそちらへ視線を走らせ、...

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