第22章

九条小百合子の視線が滑り落ち、詩織と、その足元にあるスーツケースの上で止まった。二秒ほど見つめた後、小さく眉を上げる。何も言わず、ただ室内に足を踏み入れ、背後のアシスタントにハンドバッグを渡した。

「詩織」

日本語だった。その口調には、名状しがたい余裕が漂っている。

「奇遇ね」

詩織はスーツケースのハンドルを握り直し、半歩下がって彼女を招き入れた。

「九条夫人」

小百合子の動きが一瞬止まった。

詩織を一瞥する。その瞳の奥で何かが閃いたが、表情を崩すことはなかった。そのままリビングへと進み、当然のようにソファに腰を下ろす。テーブル上のリモコンを無造作に取り上げ、エアコンの温度を下...

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