第32章

「四千万」

 

ハンマーの音が落ちるや否や、会場内に波のような競り合いの声が次々と湧き起こった。

 

詩織は席に座ったまま、ステージ上の古書に視線を落とし、動こうとはしなかった。

 

『商家伝書』。その本のことは知っている。江戸時代初期から伝わる豪商の秘伝書で、記されているのは単なる帳簿ではない。人を見る目、布石の打ち方、乱世においていかにして家業を百年長引かせるかという、商道の骨格そのものだ。このような代物は、図書館に置けばただの史料だが、真に価値を理解する者の手に渡ってこそ、生きた知識となる。

 

彼女はただ静かに見つめ、何も言わなかった。

 

源枢が横を向き、彼女を一瞥する。

 

楠木瑾...

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