第53章

江藤亘が先に車を降りた。

 

ドアが閉まる微かな音のあと、長い沈黙が落ちる。

蓮は後部座席に深くもたれかかり、運転手に発車を命じようとはしなかった。

 

手元のスマートフォンをじっと見つめ、画面の上に指を浮かせたまま、長く静止している。

LINEのトーク画面。

最後のメッセージは二ヶ月前で止まっていた。詩織からの短く事務的な業務報告。他の部下に宛てるものと何ら変わらない文面だった。

 

通話ボタンを押そうとする。

だが、あの記者会見の光景が脳裏をよぎった。

 

マイクの前に端座する小百合子。余裕に満ちた表情で放たれる言葉は、どれも丹念に研ぎ澄まされた刃のようだった。

「浅宮某」「身元不明の女性...

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