第57章

「私を呼びつけたのは——」詩織が口を開く。その声は終始変わらず平らだ。「コーヒーを飲むためじゃないでしょう。協議書のどこが問題なのか、今言ってください。」

小百合子の表情が一瞬冷えた。そしてすぐに、見下すような軽蔑の色に塗り替わる。

「あのことだ。」彼女が言う。「何のことか、分かっているでしょう。」

詩織はすぐには答えなかった。

「不適切な映像のことよ。」小百合子はゆっくりと言葉を紡ぐ。「私が知らないと思っているの?」

その言葉は刃物だった。投げられる仕方に焦りはなく、探りが込められていた。

詩織の目が、その瞬間に冷え切った。

彼女は首をわずかに傾げた。「九条夫人――」ゆっくりと言葉を置く。「...

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