第60章

詩織は彼の手首を握ったまま、何も言わなかった。

ただ握っていた。力は強くないが、確かだった——何かを確かめるような、無意識の確認。ここに誰かがいること、自分がまだここにいること。

源枢は手を引かなかった。

彼はうつむき、彼女を見つめながら待った。

しばらくして、詩織はゆっくりと手を離した。腕が布団の上に戻る。彼女は咳払いを一つし、喉の奥の渇きを確かめた。

「昨夜のことだが——」彼女は言葉を切った。「ところどころ、記憶が曖昧で……」

源枢の表情は変わらなかった。しかし、その瞳の奥で何かが一瞬沈んだ。

「どこまで知りたい。」

「全部。」

——彼はベッドのそばの椅子に腰を下ろし、昨夜の出来事を最初か...

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