第65章

「大丈夫?」

低い声だった。どこか気怠げな、余裕を含んだ声。

詩織は重心を立て直し、ゆっくりと顔を上げた。

源枢が立っていた。細長い手のひらが、まだ詩織の肩に置かれている。その目は詩織の頭越しに周囲をさっと見渡してから、すっと前方に戻った。

今夜は濃い色のスーツ。余分な装飾は一切ない。それでも、周囲に漂う気配は無言の障壁のように、宴会場の喧噪を遠ざけていた。

詩織は源枢と目を合わせた。

静かな瞳だった。その静けさの奥に、何か固いものがある――深い淵の底に沈む岩礁のような、いかなる波にも揺るがされないもの。

胸の奥から、どこからともなく、静かな安堵がにじみ出てきた。

「平気です」...

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