第72章

須藤礼の質問は、最後まで出なかった。

詩織が先に口を開いた。「熱を出しました」

「……それだけ?」

「それだけです」

礼がじっと三秒見つめた。意味深な笑みがゆっくりと消え、代わりに半信半疑の表情が浮かんだ。「本当に何も覚えてないの?」

「高熱を出したことは覚えてます」詩織がゆっくりと体を起こした。手首のガーゼはまだ巻かれたまま、少し痛んだ。「寒くて、それから熱くて、そのあとは覚えてません」

礼が一拍沈黙して、カップをサイドテーブルに置いた。「わかった」語調に何か言い足りないものがあったが、それ以上追及しなかった。

詩織は俯いて手首を見た。ガーゼは交換されていて、丁寧に巻かれている...

ログインして続きを読む