第78章

詩織の頭が二秒近く停止した。

喉仏。源枢の喉仏だ。

ゆっくりと状況を繋ぎ合わせた——車が揺れ、彼女は前に倒れ、源枢が支え、顔を上げた瞬間、唇がその微かに冷たく動く硬いものに当たった。

薄い赤色は、自分の口紅だ。

「……」

詩織は動かなかった。

今の自分の表情がどうなっているかさえ分からなかった。視線は釘付けにされたようにその痕から離れられず、離そうとも思えなかった。

パニック寸前——それが今の自分を最も正確に言い表していた。

「浅宮さん」源枢の声が頭上から届いた。何の感情も含まない静かな口調だった。「いつまで見ているつもりですか」

詩織は咄嗟に顔を上げ、その動作がさらに慌てた...

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