第70章

言い終えた瞬間、神谷雅子の表情がぱっと明るくなった。けれど私の視線に触れた途端、彼女は慌てて目をそらす。

気づかれたくない何かでもあるみたいに、つんと顎を上げて言った。

「勘違いしないで。戻してあげるなんて、まだ決めたわけじゃないんだから」

自分をどれだけ大物だと思ってるんだ、その顔。吐き気が込み上げて、危うく本当に吐くところだった。

――今さら、まだ私の狙いが神谷陸だと思ってるの?

あの態度のどこを見たら、神谷陸が私を気にしてるように見えるの。どの目で。

内庭のほうからは、絶え間なくざわついた物音が聞こえてくる。私は早く“見物”に行きたくて、こいつらと無駄に揉める気はなかった。...

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