第85章

一ノ瀬蓮がこちらを見た。いったん目を見開いたかと思うと、次の瞬間には何事もなかったみたいに口元だけをゆるく吊り上げ、腕の中の女をそっと支え直す。

女も私を見て、明らかに一瞬固まった。それから、悪いことをしてしまった人みたいに距離を詰めてくる。

「相沢さん、誤解しないでくださいね。さっき私、足元がふらついちゃって……蓮お兄ちゃんが支えてくれただけなんです。本当に、何もないんです」

私が口を開く前に、周囲の野次馬が次々と囁き合った。

「なに、縄張り宣言?」

「まだ何も起きてないのに、宣言するには早くない?」

「ていうか、ちょっと自信なさそうじゃない? 相手は碧山珠希さまよ?」

「碧...

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