第88章

契約意識の欠片もない相手と、これ以上くだらないやり取りを続ける気はなかった。

値切りもせず違約金を払うと言っただけでも、十分すぎるほど顔を立ててやったと思う。

「弁護士を立てて、手続きで進めます」

最後にそれだけ言って、私はそのまま通話を切った。

椅子に深くもたれ、眉間を指で揉む。軽く心の準備をしてから、一ノ瀬蓮の執務室へ向かった。

さっき長谷川毅には言い返した。けれど、向き合うべき相手は別にいる。

この件を私に任せたのは一ノ瀬蓮だ。なら、筋の通った説明を返さなければならない。

……そう頭では分かっているのに、扉をノックして彼の前に立った瞬間、足が勝手に震えた。胸の奥から、じわ...

ログインして続きを読む